着物の紋は、なぜ数によって格が変わるんだろう。Re:ADY Bで入荷した着物を見ていると、背中や袖に白く抜けた紋が入っているものと、何もついていないものが混ざっています。同じ黒い着物でも、紋があるとなんだか急に「格式高い」空気をまとう気がして、わたしはずっと気になっていました。今回はこの紋について調べてみました。

黒地に黒の流水文様を織り込んだ帯

まず分かったのは、着物の格は「着物の種類×紋の数」の掛け算で決まるということ。紋は多いほど格が上がり、女性の黒留袖と男性の黒紋付羽織袴、どちらも五つ紋が最高格にあたります(文化庁「令和5年度 生活文化調査研究事業(和装)報告書」、2024年公表)。

数の段階は無紋・一つ・三つ・五つの4種類しかなくて、二つや四つという中間はありません。ここも意外でした。しかも数によって付く位置まで決まっています。一つ紋は背縫いの真上(背紋)だけ。三つ紋は背紋に両後ろ袖の袖紋が加わります。五つ紋になると、さらに両胸の抱き紋が足されて、背・両袖・両胸の5か所すべてが埋まる形です。

呉服店の解説を読むと、格との対応も見えてきます。五つ紋は黒留袖と黒喪服に必須で、紋の形を白く染め抜いて面で表す「染め抜き日向紋」を使うのが決まり。三つ紋は色留袖や色無地、一つ紋は色留袖・訪問着・色無地・礼装用の江戸小紋・色喪服と、少しずつ格を下げながら使われます。中でも面白いのが色無地で、紋の有無と数だけで準礼装にも普段着にもなる。同じ生地・同じ色なのに紋ひとつで立場が変わる、いちばん分かりやすい例だそうです。準礼装では紋一つから三つが慣例とされてきましたが、近年は紋を付けない場合もあるとのことでした。

紋そのものの表し方にも序列があります。白く染め抜く「染め抜き日向紋」が最上位で、輪郭を太い線で描く「中陰紋」、輪郭線だけの「陰紋」の順に略式になっていく。技法で見ても、防染して白く染め抜く技法がもっとも格が高く、型を使って色を摺り込む「摺り込み」、糸で描く「縫い」の順に格が下がり、後から貼り付ける「貼り紋」はさらに簡易な扱いです。

染め抜き紋は、白生地を染めるときに紋の部分だけあらかじめ防染して白く残し、最後に墨で輪郭を描き足して仕上げます。この最後の工程を「紋章上絵」と呼び、桐生市の紋章上絵は1975年4月23日に国の選択無形文化財に選ばれました。

別の産地の話も面白かったので紹介します。東京都の公式メディアが取材した紋章上絵師(京源・波戸場承龍さん、三代目)によれば、女性用は直径21mm、男性用は38mmという小さな円の中に、竹製のコンパスにイタチの毛の極細筆をつけた「分廻し」という道具で紋を描くそうです。この分廻し、同家に10本しか残っておらず、今は作れる職人もいない。2022年の取材時点で、仕事そのものが「風前の灯火」と語られていました。

紋の位置には「背紋は祖先、抱き紋は両親、袖紋は兄弟を表す」という説明を見かけましたが、これは由来の裏付けが取れていない俗説として扱われているようです。意味としては素敵ですよね。でも鵜呑みにはしないでおこうと思います。

Re:ADY Bの目線で見ると、紋は着物を解く前の重要な手がかりになります。背・両袖・両胸に白く抜けた紋があれば、それは黒留袖か喪服で、礼装用の上質な生地である可能性が高い。染め抜き紋は生地に直径2〜4cmの白い円として残るので、解いて材料にすると、背中心や袖、胸の位置にその円がそのまま出てきます。裁ち位置を決めるとき、この円を避けるか、逆にデザインとして取り込むか。紋は、素材としての着物を見るときにも格を教えてくれる印なんです。

次回は、この紋も含めて着物に描かれる柄や織りを、もう少し違う角度から見ていきたいと思います。

Re:ADY B マーケティングディレクター SUMIRE

Iwaoka Sumire
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